カラスのチターを聴きにウィーンを訪れたオーソン・ウエルズ
激動のウィーン「第三の男」誕生秘話
− チター奏者アントン・カラスの生涯 −
内藤敏子著/マッターホルン出版
1949年、第二次世界大戦の傷跡も癒えぬウィーンを舞台に、映画「第三の男」の撮影が開始された。監督キャロル・リードは、この映画の音楽に思慮していた。そのような時に、ウィーンのチター奏者アントン・カラスとの出逢いが訪れた。カラスはロンドンのリード邸で作曲に取り組んだ。 映画は完成し、1949年9月ロンドンで初めて公開されたときの人々は感動のあまり呆然としたという。 数日後、カンヌ映画祭にてグランプリを受賞した。日本での公開は3年後の1952年9月であった。
20世紀の最高傑作といわれる映画「第三の男」は、1999年に制作50周年を迎えた。今もってその人気は衰えを見せず、当時の映画全盛を過ごした人々にとって、この映画は青春そのものだ。
著者自身が日本全国に於ける演奏や講演を通して接した聴衆との対話の中で、多くの人々がこの映画や音楽に深い関心を抱いていることは驚くほどだ。
1998年発行されたキネマ旬報特別号「映画人100人に聞いた洋画ベスト10」においても、「第三の男」は1位 だった。映画評論家の故淀川長治氏は「第三の男は映画における永遠の教科書である」と語り、また故荻昌弘氏も「この映画を観ずにして、映画を語ることは出来ない」とまで述べている。
この映画は、これほどに多くの人に慕われているなかで情報は公開されず、様々な憶測や噂が常に先行してきた。特に、映画のヒットに多大な功績を残した音楽に関することも全く事実とは異なる情報が一人歩きしている。日本国内での出版物も同様である。
事実に反する情報と噂が飛び交うこの社会で、何が正しく何が信じられるのかわからないような現実の中で、私は資料に基づき正しいことを歴史に残すという作業と使命を痛感した。正しい情報と資料はなぜ公開されなかったのか。その最大の理由は、この映画の音楽、作曲、演奏を担当した故アントン・カラスとその家族が被った非望中傷の痛みからだった。彼らは口を閉ざすことを余儀なくされたのである。
キャロル・リード監督は夫人と彼らの痛みを共にし、これらの件を含めてカラス家の人々を支えてきた。映画が制作されて50年、新世紀が訪れた今日、アントン・カラスの家族は、世界でただひとり、初めてこの貴重な資料を著者である内藤敏子に託した。 30年来の親交と深い信頼関係によって長女ミミーはインタビューに答えた。チターの専門家から見た映画「第三の男」に関する出版は世界で初めてのことである。本書は秘蔵の資料200点と長女ミミーと家族の記憶をたどった話をもとにまとめたものである。他、チターに関することや貴重な歴史的エピソードも初めて紹介されている。
日本全国の映画ファン、チターファンにとってこの出版が歓びになる事を願い、映画研究者にとって解明の糸口となってほしいことを願っている。
タイトル 激動のウィーン「第三の男」誕生秘話
チター奏者アントン・カラスの生涯
著 者 内藤敏子
出 版 社 マッターホルン出版(Tel 03-3466-0788)
判 型 A5版 336頁 写 真約200点掲載
価 格 2,000円(本体1,905円+消費税)
書籍番号 ISBN 4-901600-00-1(地方小扱い)
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